リモートワーク時代の働き方再考

エンジニアという職業には親和性が高い「リモートワーク」ですが、コロナ禍以降世界中で「リモートワーク」が導入されました。あれから数年の月日が流れ、大企業・有名企業を中心に「リモートワークをやめよう!」という話がチラホラ聞こえるようになりました。しかしながら、現場のエンジニアと接している身としてはエンジニアは「リモートワーク最高!」という考えはまだまだ根強く世間とのギャップが徐々に出ているのかなという印象です。

この記事では、リモートワークの功罪を改めて整理しながら、最終的に「ハイブリッド」という働き方に落ち着いていくのではないかという理由について考えたいと思います。

リモートワークで得たもの

  1. 通勤地獄からの解放、QOL(Quality Of Life)が大きく向上
  2. 自分のペースで仕事に取り組める
  3. 家庭・育児・介護との両立ができる
  4. 地方移住、極端な話海外移住も可能
  5. 企業側としてはオフィスのコストが削減できる

通勤時間の削減は、従業員の生活の質(QOL:Quality of Life)に大きな影響を与える要素の一つです。特に都市部では、往復で1〜2時間以上を通勤に費やすことが日常となっており、この時間的・身体的負担は、慢性的な疲労やストレスの原因となっていました。リモートワークの導入により、これまで「当たり前」とされていた通勤時間がゼロになったことで、多くの人が自由に使える時間を確保し、生活のリズムや心身の健康を整えるきっかけとなっています。

たとえば、朝に余裕を持って朝食をとる、軽く運動をする、育児や家事に時間を充てるなど、通勤のために犠牲にしてきた時間が「生活に戻る」現象が広がっています。このような変化は、単に生活を快適にするだけでなく、結果として仕事への集中力やパフォーマンスの向上にもつながるため、企業にとっても間接的な生産性向上策と位置づけることができます。

つまり、リモートワークによって通勤という「見えない負担」が取り除かれることは、働き方改革の本質的な価値の一つであり、単なる利便性の向上にとどまらず、持続可能な働き方と従業員のウェルビーイングの両立を実現する鍵といえるでしょう。

このようにして生まれた時間的余裕は、単なる生活の快適さの向上にとどまらず、家庭における役割や責任との両立を現実的なものにするための大きな支えとなっています。特に注目すべきは、子育てや介護といった、従来のフルタイム勤務では両立が難しかった家庭内のケア責任を持つ人々へのインパクトです。育児においては、保育園や学校の送り迎え、病気の際の看病、一時的な在宅対応など、突発的かつ柔軟な対応が求められる場面が多く、物理的な拘束がある出社中心の働き方では対応が難しいという課題がありました。

また、高齢化が進む日本社会では、親の介護を担う「ビジネスケアラー」の数も年々増加しています。介護は決まったスケジュールで発生するものではなく、突発的な対応や定期的なケアが必要になるため、従来のように朝から晩までオフィスに拘束される働き方では、離職や雇用の断絶を余儀なくされるケースも少なくありませんでした。そうした中で、リモートワークや柔軟な勤務形態の導入は、多様なライフステージにある労働者が「働き続けられる社会」を実現するためのインフラとして、非常に重要な役割を果たしつつあります。

つまり、通勤時間がなくなることの本質的な価値は、単に「楽になる」「時間が浮く」といった表面的なものではなく、働き方の自由度を高め、個々の生活に即した働き方を選べるようになるという点にあります。リモートワークは、一人ひとりの事情に寄り添う柔軟性を社会に取り戻すための、不可欠な要素と言えるでしょう。

でもリモートワークのデメリットも・・・

リモートワークには確かに多くの利点があるものの、現実には理想どおりに機能しない場面も多く存在します。働く人すべてにとって必ずしも「快適で効率的」な働き方とは限らないという事実も見逃してはなりません。

まず、多くの企業や従業員が直面しているのが、「コミュニケーションの質と量の低下」です。対面では自然に生まれていたちょっとした雑談や、会議後の非公式なやり取りがオンラインでは極端に減り、チーム内での相互理解や連携力が弱まったと感じる声が少なくありません。業務の進行に必要な情報共有だけではなく、「空気感」や「ニュアンス」といった言語化しにくい情報の伝達が難しくなるため、組織文化の希薄化や孤立感を引き起こすリスクも孕んでいます。

また、評価制度の難しさも大きな課題のひとつです。とくに日本企業では、「頑張っている姿」「熱意」「チームとの協調性」など、プロセスや姿勢を重視する評価文化が根強く、リモート環境ではその可視化が難しくなります。その結果、実際に成果を出していても「見えにくさ」が原因で正当に評価されないと感じる社員も増え、モチベーションの低下や不信感につながる恐れもあります。

さらに、仕事とプライベートの境界が曖昧になりやすい点も注意すべきでしょう。自宅が職場になることで、オンオフの切り替えがうまくできず、常に「仕事モード」から抜け出せない状態に陥るケースも少なくありません。とくに自己管理能力やセルフモチベーションの高さが求められるため、向き不向きの差が顕在化しやすいという側面もあります。

加えて、自宅に集中できる作業環境を整えられない人にとっては、むしろ生産性が落ちてしまうこともあります。たとえば、小さな子どもがいる家庭、同居家族の生活音が気になる住環境、十分な作業スペースや高速インターネットが確保できない場合など、「自宅=快適な職場」ではない現実が存在しています。

つまり、リモートワークは万能ではなく、その利点を最大限活かすには、個人・組織・制度の三位一体での対応が不可欠です。制度だけ整えても、文化やマネジメントが追いついていなければ逆に生産性が低下する恐れもあるため、デメリットや落とし穴を正しく理解し、現実的な対応策を講じていくことが重要になります。

では、あいだをとってハイブリッドで

リモートワークと出社勤務、それぞれのメリットとデメリットが明らかになる中で、その両方の利点を取り入れつつ、欠点を補い合う「ハイブリッド型勤務」こそが、現実的かつ持続可能な働き方の落としどころであるという認識が広まりつつあります。

一方で、リモートワークには柔軟性や時間効率といった大きな利点があり、多くの従業員がその恩恵を実感しています。仕事に集中できる時間が確保できる、自分の生活リズムに合わせて働けるなど、個人の生産性やQOL(生活の質)を高める要因として非常に有効です。また、通勤の負担がなくなることで、身体的・精神的なストレスが軽減され、ワークライフバランスの実現にも寄与します。

しかし、前述のように、リモートワークにはチームビルディングの難しさや、育成・評価の課題、コミュニケーションの齟齬といった側面もあり、完全リモート体制の継続は一部の業種・職種を除けば難しいのが実情です。とくに若手社員の育成や新規プロジェクトの立ち上げなど、密な連携や偶発的なアイデアの創出が求められる場面では、対面の価値は依然として高いと言えます。

こうした背景から、「出社による対面の価値」と「リモートによる柔軟性」の双方をバランスよく取り入れるハイブリッド型勤務が、現実的な選択肢として注目されているのです。週に数日の出社日を設けることで、チームの結束力や帰属意識を維持しながらも、個々の事情に配慮した柔軟な働き方を実現する。まさに「いいとこ取り」の働き方と言えるでしょう。

さらに、ハイブリッド型は企業にとっても合理的な判断といえます。オフィススペースを縮小しながらも、完全撤廃は避けることでコスト最適化が図れる一方で、従業員との心理的距離を適切に保ち、組織文化の継続も可能にします。また、定期的な対面によってマネジメントや人材育成の機会を確保しやすく、経営と従業員の双方にとって現実的なバランスをとる手段として、今後ますます重要性を増していくでしょう。

ハイブリッドワークに成功している(と思われる)国内外企業の例

ハイブリッドワークが単なる「コロナ禍の一時的な対応」にとどまらず、長期的かつ戦略的な働き方として定着しつつある背景には、実際に成果を上げている企業の存在があります。以下に、国内外の成功事例を紹介します。

日本:富士通株式会社

富士通は、2020年から「Work Life Shift」という働き方改革を本格的に推進し、社員約8万人を対象にハイブリッドワークを導入しました。オフィスは「固定席を持たないコラボレーションの場」と位置づけ、出社とリモートを目的に応じて使い分けるというスタイルを徹底しています。

注目すべきは、単に制度を導入するだけでなく、「出社が必要な業務とは何か?」を職種・プロジェクト単位で見直し、業務設計や評価制度もハイブリッド前提に再構築した点です。その結果、従業員の満足度や柔軟性が向上し、同時に組織全体の生産性も改善されたと報告されています。

海外:Google(アルファベット社)

テック業界の象徴であるGoogleも、ハイブリッドワークの代表例です。完全リモートから出社回帰へと揺れ動く中で、Googleは2022年に「週3日オフィス出社・週2日リモート」のハイブリッドモデルを正式に導入しました。

Googleの特徴は、出社を「コラボレーション重視の日」と明確に位置づけている点です。偶発的な会話やリアルタイムな議論がイノベーションの起点になるという企業文化を維持するために、対面の価値を意図的に残しつつも、社員の柔軟な働き方を尊重しています。

また、社内アンケートをもとに働き方を継続的に改善する仕組みや、オフィスの再設計(ゾーニング、サウンドスケープの改善など)も進めており、物理環境と制度の両輪でハイブリッドを支える体制が整っています。

Googleは徐々にハイブリッドワークができる基準をきつめにしているようですが、週三回は出社するようになど条件として掲げていることはそこまで無理がある内容ではないと言えます。

海外:マイクロソフト

マイクロソフトもまた、ハイブリッド勤務を成功させたグローバル企業の一つです。全社的に「リモート・ファースト」を進めつつ、週数回の出社や対面の交流を重視する文化を維持しています。

注目すべきは、「マネージャーの役割再定義」に取り組んだ点です。管理職が「目の前にいる部下」を優遇する偏見を防ぐために、リモート下でも透明性のある評価制度や、成果ベースのマネジメントを強化。さらに、ハイブリッド環境でのエンゲージメント向上のために、定期的な1on1や心理的安全性を意識したコミュニケーション施策も実施しています。

まとめ

働き方の多様化が進む現代において、リモートワークか、出社かという二者択一の議論はもはや意味を持ちません。業種、企業文化、職種、個人のライフステージによって最適な働き方は異なり、「これが正解」という唯一のモデルは存在しないのが現実です。

その中で浮かび上がってくるキーワードが「柔軟さ」です。完全リモートでもなく、フル出社でもなく、それぞれの状況に応じて柔軟に働き方を設計・選択できる体制――すなわちハイブリッド型勤務が、今の時代に最も現実的かつ持続可能なスタイルとして支持されている理由です。

とはいえ、単に「リモートと出社をミックスすればいい」という話ではありません。重要なのは、企業側がその柔軟性を支えるための制度設計・評価基準・コミュニケーション設計を戦略的に構築できるかどうかです。同時に、働く個人側にも、自律的に業務を管理する能力や、状況に応じて最適な働き方を選択する判断力が求められます。

働き方の選択肢が増えた現代は、見方を変えれば「自由と責任がセット」になった時代とも言えるでしょう。企業と従業員の双方が信頼と透明性を持って柔軟な働き方を設計できたとき、ハイブリッドワークは真の力を発揮し、生産性と働きやすさの両立が実現するのです。

これからの時代に求められるのは、画一的なルールではなく、変化に応じて最適解を見つけ続ける姿勢。その柔軟さこそが、組織にとっても、働く個人にとっても、長く続く強みとなるはずです。

それでも、リモートワークって最高ですよね。通勤はないし、好きな時間に働けるし、コーヒー片手にコードを書いて、昼寝して、散歩して、またコード。「こんな自由な働き方、もう元には戻れない!」――そう思っているエンジニアも多いはず。正直、それは間違っていません。

ただ、「自由=最強」だと思い込んでしまうのは、ちょっと早計かもしれません。

リモートワークが成り立つのは、自分ひとりの力だけじゃない。
チームの理解、クライアントとの信頼関係、そして何よりも「成果を見せられるか」がすべてです。
自由に働くってことは、「何をしているか見えない状態でも、相手に安心してもらえる人間であること」が求められる。
つまり、リモートワークには「見えない責任」がくっついてきます。

さらに言えば、世の中のすべての人が、あなたのように自走できるわけではありません。
まだスキルの浅い人、チームで学びながら成長したい人、家庭や育児・介護で物理的な制約を抱える人――いろんな背景があります。
そういう多様な人たちが、無理なく、でもしっかり成果を出していける環境をどう作るか?
そこまで視野を広げていけたとき、あなた自身の自由も、もっと深くて意味のあるものになるはずです。

「自由に働きたい」は、これからの時代の当たり前。
でもその自由を「誰にとっても持続可能なもの」にしていけるのは、一歩先を見ている人なのだと思います。